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東京地方裁判所 平成3年(特わ)1858号 判決 1992年11月05日

本籍

東京都文京区千駄木一丁目一一番

住居

同所一一番一七号

会社役員

関口正行

昭和三年七月三一日生

主文

被告人を懲役一年六か月及び罰金四、五〇〇万円に処する。

この罰金を全額納めることができないときは、三〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、東京都文京区千駄木一丁目一一番一七号に居住し、貸金業や不動産賃貸業等を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと考え、不動産の売却収入の一部を除外するなどの方法により所得を隠匿して、昭和六二年分の実際の総所得金額が一、三〇三万六、一五八円、分離課税による土地等に関する雑所得金額が四億九、三四六万四、七六六円であった(別紙1修正損益計算書参照)のに、昭和六三年三月一五日、同区本郷四丁目一五番一一号にある所轄の本郷税務署において、税務署長に対し、総所得金額が八、四八二万九、二三〇円の損失、分離課税による土地等に関する短期譲渡所得金額が一億七、八五二万一、一〇九円で、これに対する所得税額が一億八八九万四、六〇〇円であるという虚偽の内容の所得税確定申告書(平成四年押第九〇号の1)を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、同年分の正規の所得税額三億二、三〇三万四、二〇〇円と右の申告税額との差額二億一、四一三万九、六〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れた。

(証拠)

1  被告人の公判供述

2  被告人の検察官調書、国税査察官質問てん末書(三通)、国税査察官質問てん末書謄本

3  証人高橋建規、小元廣吾、守島久雄こと金鐘壽の公判供述

4  第三回公判調書中の証人岩﨑正の供述部分

5  岩﨑正(不同意部分を除く)、吉田雅一、守島久雄こと金鐘壽、高橋建規、小元廣吾(不同意部分を除く)、前田政弘の検察官調書謄本

6  分離課税の土地等に係る雑所得の収入金額調査書(不同意部分を除く)、分離課税の土地等に係る雑所得の取得価額調査書、分離課税の土地等に係る雑所得の取得費用調査書、分離課税の土地等に係る雑所得の負債の利子調査書、分離課税の土地等に係る雑所得の販売費・一般管理費調査書、租税公課調査書(二通)、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書(二通)、修繕費調査書、消耗品費調査書、減価償却費調査書(二通)、福利厚生費調査書、給料賃金調査書、利子割引料調査書、事務用品費調査書、支払手数料調査費、公正費調査書、車両費調査書、雑費調査書、賃貸料収入調査書、管理費収入調査書、借入金利子調査書、管理費調査書、利子収入調査書、分離課税の短期譲渡所得の収入金額調査書、分離課税の短期譲渡所得の取得価額調査書、分離課税の短期譲渡所得の取得費用調査書、分離課税の短期譲渡所得の譲渡費用調査書、所得控除額調査書、源泉徴収税額調査書

7  捜査報告書

8  所得税確定申告書等一袋(平成四年押第九〇号の1)

(争点に対する判断)

一  本件脱税の対象となった所得の大部分は、被告人が東京都北区中里町一丁目の土地(面積合計約一四〇・九六坪。以下「本件土地」という。)を菱輪建興株式会社(以下「菱輪」という。)に売買した際に受領したいわゆる裏金(公表外の代金)であるが、本件の争点は、この裏金の金額が四億二、二二八万円か三億五、二二八万円か、換言すれば、被告人と菱輪との間にいわゆるダミー(形式上の当事者)として入ったアイワ興産株式会社(以下「アイワ」という。)に対して支払われたいわゆる脱税協力金の七、〇〇〇万円が、本件土地の売買代金に含まれるか否かという点である。

二  争点に対する判断の前提として、以下の事実は概ね争いがなく、証拠上明らかに認められる。

1  被告人は、個人で金融業を営んでいたほか、不動産賃貸業等を目的とするオリエンタルビルヂング株式会社の代表取締役として、これを経営していた。被告人は、知合いの不動産業者である東建地所株式会社代表取締役の高橋建規(以下「高橋」という。)の仲介により、本件までに数軒の不動産の売買をしたことがあるが、不動産業を営んでいたものではない。

2  被告人は、高橋及び小元土地建物株式会社代表取締役の小元廣吾(以下「小元」という。)を使って、昭和六一年九月ころまでに、四筆からなる本件土地についていわゆる地上げを行い、更地として取得した。

3  一方、菱輪代表取締役の岩﨑正(以下「岩﨑」という。)は、同年八月下旬ころ、小元らから本件土地の地上げをしていることを聞き付け、これを転売して利益を得ようと考え、日本トータルプラン株式会社(以下「日本トータルプラン」という。)から代金一六億四、二一八万円で買う旨の買付け証明をとったうえ、これを買いたいと小元、高橋を通じて被告人に申し入れた。これに対し、被告人は、当初本件土地の上に自宅建分譲マンションを建設する計画を有していたため、岩﨑の申込みをいったん断ったが、岩﨑が多額の裏金を提供すると申し出たので、高橋の説得もあり、当初の予定を変更して、これに応じることにした。そして、同年九月下旬ころ、被告人は、岩﨑との間で、本件土地の公表の売買代金を一坪当たり五五〇万円とし、その余の代金を裏金として授受することに合意した。

4  岩﨑は、本件土地の転売によって多額の裏金を捻出するとともに自己の転売利益に対する課税を免れるため、本件土地をめぐる一連の取り引きにアイワ及び同社代表取締役の守島こと金鐘壽(以下「守島」という。)の知人が経営するミヤビ産業有限会社(以下「ミヤビ」という。)をダミーとして介在させる一方、菱輪を契約当事者から外して背後に隠すことを画策した。この結果、被告人からアイワが本件土地を七億七、五二八万円で買い、ミヤビに八億四、五七六万円で転売し、更にミヤビが日本トータルプランにこれを一六億四、二一八万円で転売したように装った契約書類がそれぞれ作成され、同年一〇月一三日、被告人ら関係者が一同に会してこれを取り交わした。なお、これにより前に、岩崎は、アイワの代理人奥田由造(以下「奥田」という。)を伴って被告人を訪ね、同社が年売買の買主になると伝えた。

5  契約締結に先立って、高橋が岩﨑に対し、裏金を確実に支払うことを書面で誓約するよう要求したので、岩﨑は、裏金四億二、二二八万円を支払うという趣旨で、アイワ代表取締役守島を作成名義人とし岩﨑を立合人とする「支払約条書」と題する書面と、本件売買に関して被告人に迷惑や損害を発生することがないよう自らの責任と費用で解決し、被告人に迷惑をかけないという趣旨で、同様の形式の「念書」を作成し、右の契約締結の場で被告人に交付した(なお、この裏金の金額は、岩﨑が一坪当たり三〇〇万円の単価に本件土地の坪数一四〇・九六坪を乗じる計算をした際、四億二、二八八万円とすべきところを計算間違いをしたものである。)。

6  岩﨑は被告人に対し、同月一六日ころ、公表の売買代金七億七、五二八万円を支払い、昭和六二年二月二日ころ、高橋を介して、アイワに対する脱税協力金七、〇〇〇万円を控除した三億五、二二八万円を交付する一方、そのころ、アイワに対する脱税協力金として、同社の代理人奥田に合計一億二、三〇〇万円を交付した。

三  まず、裏金のうち七、〇〇〇万円を脱税協力金としてアイワに交付することについて、被告人岩﨑の間で合意が成立したかどうかを検討する。この点について、被告人の相手方である岩﨑は、売買契約締結に至るまで、被告人にこの点を直接確認したことはなかったと証言している。同人は、裏金のうち七、〇〇〇万円が被告人の所得となることにより自らの経営する菱輪の所得が減る関係にあり、被告人とは利害関係が相対立する当事者であって、現にそれ以外のいくつかの点において、被告人に不利益な証言をしているのである。このような利害関係にもかかわらず、同人が右の点を否定する証言をしたということから、右証言は信用性が高いとみるべきである。本件土地の売買において岩﨑側の仲介人となった小元は、主尋問においては、右の点を肯定する証言をしたものの、反対尋問においては、これを否定する証言をしている。同人も岩﨑と共通の利害関係を有することからすると、主尋問における証言は信用できず、反対尋問における証言が信用できるというべきである。更に、本件土地の売買において被告人側の仲介人となった高橋の検察官調書や被告人の検察官調書、国税査察官質問てん末書にも、事前にこの点に関する合意があったという記載は見られない。結局、被告人と岩﨑との間で脱税協力金に関する合意が成立したという事実は認められないというほかない。

ところで、本件土地の売買の公表価格は、一坪当たり五五〇万円という計算によって決められたが、裏金を含む実際の売買代金について、岩﨑と小元は、一坪当たり八五〇万円という計算で決まったと証言するのに対し、被告人は、公判廷において、公表金額に裏金三億五、〇〇〇万円を加えた額(一坪当たり約八〇〇万円)であったと主張する。この点について、高橋は、検察官調書及び証人尋問の主尋問においては、売買代金が一坪当たり八五〇万円という計算で決まったと供述ないし証言しながら、反対尋問においては、公表の金額に裏金三億五、〇〇〇万円を加えた額であったと証言している。高橋は、不動産業者であるから、裏金を含む一坪当たりの売買代金がいくらになるかは当然計算していたと考えられ、右の証言の矛盾に気づいていたはずであって、右の反対尋問における証言は信用できない。したがって、本件土地の売買契約締結に至るまでの過程で、少なくとも岩﨑、小元、高橋の間では、裏金を含む本件土地の売買代金を一坪あたり八五〇万円とするという了解が成立していたと推認することができる。

これに対し、被告人は、公判において、今までの実績から高橋を信頼し、同人に交渉を一切任せていたので、契約締結の日まで、裏金の額は三億五、〇〇〇万円であると思っていたが、当日岩﨑が差し入れた「支払約条書」に、裏金として四億二、二二八万円を支払うという趣旨の記載があったので、被告人が関係者の前で「金額が違うではないか。」と高橋に指摘したと供述する。このうち、被告人が不動産業者の高橋を信頼し、同人に本件売買の交渉を一切任せていたという点は、前記二1の事実等とも符号しており、事実と認められるし、「支払約条書」に裏金として四億二、二二八万円を支払うという記載があったので、「金額が違うではないか。」と言ったという点についても、不自然なところはなく、高橋の証言とも合致しており、信用できるものというべきである。この点に関し、岩﨑及び小元は、被告人の供述と相反する証言をするが、これらの証言は不自然であって、信用できない。また、被告人の検察官調書や国税査察官質問てん末書には、当初から裏金の額が四億二、二二八万円であったことを認める記載があるが、これは高橋に本件売買の交渉を任せていたという前記認定の事実と相いれないというべきであるし、被告人が公判廷で供述するように、大病の手術後体調が充分でない時期に、国税査察官に四億二、二二八万円という額が入った「支払約条書」を示されて、理詰めの取調べを受けて根負けした結果、意に反する供述が取られ、更にこの供述態度が検察官の取調べにも引き継がれて、同様の供述が取られたのではないかと考えられ、信用性が高いとはいえない。また、高橋も小元も、裏金の金額ついて、三億五、〇〇〇万円という数字が出て、一応合意に達したと証言し、被告人の公判供述を裏付けている。結局、被告人としては、契約締結の前までは約三億五、〇〇〇万円の裏金がもらえると聞いていただけで、一坪当たりの売買単価がいくらになるかといった細かいことは、高橋に任せていたと認めるのが相当である。

そうすると、本件土地売買にからむ裏金の額は、当初、被告人及び岩﨑ら関係者の間で約三億五、〇〇〇万円という額で合意に達しが、契約締結までの間に、四億二、二二八万円と変更れさたことになる。この間の事情について、岩﨑の検察官調書(同意部分)及び証言並びに守島の証言等によれば、岩﨑はアイワの代理人奥田から本件の脱税協力金として一連の取引に関する裏金の総額の一五パーセント(約一億三、〇〇〇万円)を要求されたが、交渉の結果、一億二、三〇〇万円を支払うことで合意に達したこと、岩﨑はこのうち五、三〇〇万円を自らの負担でアイワに提供したことが認められる。更に、以上の認定事実によれば、岩﨑は脱税協力金を上積みするために、被告人に提供する裏金の額を当初の約三億五、〇〇〇万円から四億二、二二八万円へ増額するとともに、被告人の了解を得ないまま、この増加分七、〇〇〇万円を被告人の負担すべき脱税協力金としたと推認することができる。

ところで、本件のような裏金を捻出するに当たって、裏金分配の恩恵を受ける売主が、その額はともかくとして、ダミーの業者に対する脱税協力金を負担することは、裏金のからむ取引に関与する者の常識もしくは暗黙の了解事項であると考えることができる。現に、小元は、裏金の二割がダミーに対する謝礼であると認識していたと右の点を裏付ける証言をしている。また、高橋は、契約締結前にアイワがダミーに入ることは知っていたと証言しているうえ、同人の検察官調書等によれば、高橋が本件土地を地上げする際に地主や賃借人らに対して裏金を交付して話を取りまとめていったことや、本件の謝礼として被告人から一、〇〇〇万円を受け取ったほか、小元からも二、三〇〇万円を受領していることが認められる。これらの事実によれば、不動産業者である高橋は、前記のとおり裏金の額が増額されたことを知った際、差額の約七、〇〇〇万円がダミーの業者に対する協力金として支払われることを、かねて協力関係にある小元から直接聞いていたか、少なくとも暗黙のうちに承知していたと推認することができる。

更に、契約締結当日の状況をみると、高橋は、被告人が「支払約条書」を見て「金額が違うのではないか。」と言ったので、自分が岩﨑に事情を問いただしたところ、岩﨑から「実は実は」云々と言われ、その内容は覚えていないが、説得されてしまったと証言する。高橋の証言は、岩﨑とのやり取りの点が殊更あいまいであって、前記の認定事実に照らしても、到底信用できない。この時の状況について、被告人は、公判廷において、高橋が「社長、細かいことは言わないで、数字が少ないんならともかく、多いんだからいいじゃないですか。」と言ったので、裏金の額が三億五、〇〇〇万円より少なくなることはないと一応納得して、「支払約条書」を受け取ったと供述する。この供述は、自然なものであって、信用できるものである。これによれば、高橋は、裏金の差額がダミーに入ってアイワに交付されることを知りながら、契約締結の土壇場になって、被告人が裏金をめぐって岩﨑とトラブルを起こし契約が不成立になることを恐れ、事実を秘したまま被告人を説得し、その場を収めて「支払約条書」を受領させたと推認することができる。

四  以上の認定事実を前提に、本件土地売買における裏金に関する約定の効力について検討する。

岩﨑が裏金として四億二、二二八万円を支払うという趣旨の記載がある「支払約条書」を被告人に差し入れたことは、裏金として四億二、二二八万円を提供するという意思表示を理解することができる。弁護人は、「支払約条書」について、岩﨑が守島に無断でアイワの代表者名義をかたった偽造証拠であるから、事実認定の用に供するべきでないと主張する。確かに、守島の証言等によれば、「支払約条書」のうちアイワの代表者名義に関する部分は、岩﨑と奥田が守島に無断で名義を用いたものと認められるが(守島の検察官調書において、同人の作成名義とされるこの「支払約条書」が示されていないのも、この間の事情を物語るものと考えらる。)、菱輪代表者の岩﨑名義に関する部分は、真正に成立したものであり、事実認定の用に供することは何ら妨げられないというべきである。そして、この書面が差し入れられた経緯は、本来売買契約の当事者である菱輪が当事者として全く表に出なくなったため、裏金の支払いに不安を抱いた被告人の意を受けて、高橋が要求したというのであるから、その主眼は、真実の買主である菱輪の代表者岩﨑が裏金を間違いなく支払うという意思を表示した点にあるとみるべきである。したがって、「支払約条書」の差入れは、前記のとおり、有効な意思表示と認めることができる。また、「念書」の趣旨も、岩﨑が本件売買に関して被告人に迷惑や損害が発生することがないよう自らの責任と費用で問題を解決し、被告人に迷惑をかけないことを誓約したものであるが、これが差し入れられた経緯等を考慮すれば、本件売買に関する裏金の処理について被告人から一任を取り付ける趣旨を含むものと解するのが相当である。

そして、被告人は、前記のように、この間の事情を知っていると認められる仲介人の高橋に説得され、一応納得して、四億二、二二八万円という裏金の金額の入った「支払約条書」及び前記「念書」を受領したのであるから、岩﨑の申込みを承諾する有効な意思表示を行ったとみるべきであり、ここに裏金の金額を四億二、二二八万円とし、裏金の処理については岩﨑に一任するという合意が成立したと解することができる。このことは、被告人が高橋を通じて裏金三億五、二二八万円を受領した際、その額が三億五、〇〇〇万円ではなく端数が付いていることを認識しながら、何ら異議を述べなかったことからも、裏付けられるというべきである。

確かに、本件契約締結時までに、被告人が裏金のうち七、〇〇〇万円がダミーの業者に交付されることまで知らされていたとは認められないが、被告人は、公判廷において、高橋から買主が岩﨑からアイワに代わったと伝えられた時点で、岩﨑がダミーを介在させるとともに菱輪を契約の当事者から外すのではないかとうすうす感じたと供述しており、本件売買にダミーの業者が介在することは、契約締結の時点で少なくとも暗黙のうちに知っていたと認められる。そして、このような裏金のからむ取引に手を染めた以上、ダミーの業者に裏金が支払われることは予想しうることであるから、被告人の前記のような内心の状態が意思表示の効力に影響を及ぼすことはないというべきである。

五  以上のとおり、裏金の金額は四億二、二二八万円であり、被告人の所得の額は検察官の主張どおりであると認められる。

(法令の適用)

罰条 所得税法二三八条一項、二項(情状による)

刑種の選択 懲役刑と罰金刑を併科

労役場留置 刑法一八条

刑の執行猶予

懲役刑について 刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、被告人が土地の売買等に関して、一年度で二億円を超える所得税を脱税したという事案である。

本件の脱税額は一年度としては相当多額であり、ほ脱率も約六六パーセントと高率であって、本件は重大な事案である。本件犯行の手口を見ても、土地の買主から四億二、〇〇〇万円余りもの多額の裏金を受領し、いわゆるダミー会社との間で低額での売買が成立したかのように装ったというものであって、悪質かつ巧妙である。また、犯行の動機も、土地取引によって得た多額の利益を税金にもって行かれるのは惜しいという考えと、被告人の経営する会社の資金を調達したいなどという考えによるものであり、利己的であり、酌量の余地は乏しい。こうしてみると、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。

しかし、本件土地売買に関しては、菱輪の岩﨑がダミー会社を見つけるなど積極的な脱税工作を計画、実行しており、一連の脱税工作の中心人物とみることができるうえ、高橋ら仲介業者も被告人に裏金取引を勧め、あるいは協力しており、被告人は、これらの者に乗せられる形で本件犯行を行ったのであり、これらの者の存在なくしては本件犯行も考えられなかったのであるから、本件の責任を全て被告人に帰するのは適当でない。加えて、被告人は、本件発覚後、本税はもとより延滞税等を全て納付しており、捜査公判を通じて、自己の刑事責任自体は率直に認めており、反省の情も充分認められる。また、被告人は、これまで罰金前科一犯を除いては前科もなく、真面目に市民生活を送ってきたものである。更に、被告人が経営していた会社は現在任意整理中で、解散状態にあり、被告人も自由に経済活動を行える状態ではないし、被告人自身多くの持病をかかえ、健康状態も芳しくない。

以上の事情等を考慮すると、被告人に対しては、懲役刑の執行を猶予し、被告人が本件脱税によって得た不法な利益を剥奪するために、主文の罰金刑を併科するのが適当である。

(検察官蝦名俊晴、弁護人河東宗文、牧野次郎出席)

(裁判官 朝山芳史)

別紙1 修正損益計算書

別紙2 脱税額計算書

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